【第1回】身につけられるコンピューター
近年、腕時計型やメガネ型、指輪型といった身につけられるコンピューターが続々と発表されている。最近のものでは「Apple Watch」もこの身につけられるコンピューターのひとつで、一般に「ウェアラブル端末」と呼ばれている。第1回では、ウェアラブル端末のヘルスケア機能に関する技術についてわかりやすく解説する。
■代表的なヘルスケア機能
腕時計型ウェアラブル端末の代表的なヘルスケア機能が「脈拍計」と「血圧計」だ。この機能は時計型端末を身につけているだけで脈拍と血圧が自動で測定され、健康管理に役立てることができる。この2つの機能は時計型端末の裏面(腕が接触する面)に埋め込まれたセンサーによって実現していて、そこには最新の技術が詰まっている。最新の技術とは言っても原理は至ってシンプルで、先に結論を言ってしまうと「腕に光を当てると脈拍と血圧が計れる」のだ。
■機能を実現する原理
下図が脈拍計と血圧計の機能を実現する原理図だ。この原理には3つのポイントがある。
<ウェアラブル端末で脈拍計と血圧計を実現する3つのポイント>
①「光」を出す部品と受け取る部品が必要
②腕から反射してくる光の量を測定
③骨、筋肉、血液によって反射する光の色が異なる
原理図について説明する。
腕時計型端末の動作は至ってシンプルであり、「腕に光を当てて、反射してきた光の量を測定」している。腕時計の本体の裏側には光を出す部品と受け取る部品が埋め込まれている。具体的には光を出す部品はLEDで、受け取る部品はフォトトランジスタと呼ばれるものだ。LEDは今では広く普及していて、身近なものでは家庭用のライトや信号機などに使われている。フォトトランジスタは聞きなじみがある人は少ないと思うが、光があたると電流が流れる部品だ。電流と聞いて拒否反応が出る人もいるかと思うが、ここではあまり深く考えず、光を電気に変換する役目をしていると思ってもらえれば良い。
腕時計型端末は反射してきた光の量を測定するわけだが、その光の量は心臓のポンプにリンクして増えたり減ったりするイメージだ。
このリアルタイムの変化から脈拍と血圧の情報を得ることができる。例えば脈拍を知りたければ、反射光の変化ポイントに着目することで、心臓が血液を送り出したタイミングをキャッチすることができ、変化ポイントの時間間隔から脈拍を計ることができる。
ここまではいかにも簡単にヘルスケア機能を実現できるかのように述べてきたが、腕には血液だけでなく骨や筋肉もあることを忘れてはいけない。骨や筋肉からも光が反射してきてしまうなか、血液の変化だけを捉えるにはどうしたら良いか。ここでもう1つ大きなポイントとなるのが、それは骨、筋肉、血液によって反射する光の色が異なるということだ。
今回の原理図に限らず物質によって反射する光の色は異なる。例えば赤色鉛筆は赤色を反射し、赤色以外を吸収する物質だ。赤色のみを反射するので人の目に赤色の光が届き、その鉛筆は赤色に見える。
同様に骨、筋肉、血液も吸収する色と、反射する色がある。あらかじめ骨、筋肉、血液の光の性質がわかっていれば血液の変化にだけ注目することが可能となる。ここが技術の見せ所でもあり、血液の変化にだけ注目するためには何色のLEDを使えば良いか、腕時計がずれても上手く計れるか、などなど考えて工夫されている。血液の変化に着目できてさえしまえばあとは上手に信号処理するのみだ。
以上がヘルスケア機能の簡単な原理の説明だ。
■最後に
「Apple Watch」では刺青をしているとうまくヘルスケア機能が使用できないことが話題となっているが、黒はあらゆる光を吸収しやすく反射しにくいことから原理的に当然の結果と言える。現象には理由があり、本記事を読んで少しでも技術に興味を持ってもらえると幸いだ。