【第4回】ペンで描く電気の通り道①
「AgIC回路マーカー」は電気回路の導線、つまり電気の通り道を紙に描くことができる。今回はこのAgIC回路マーカーを使ってLEDを光らせるまでを解説し、使用してみた感想を書いていく。
◼︎LEDが光るまで
上の写真がAgIC回路マーカーと付属の専用紙だ。
専用紙があるものの写真用の光沢紙ならば使用可とのことであったので、所有していた光沢紙に印刷した写真を使用した。
AgIC回路マーカーを除き、LEDを光らせるために必要な部品は下記3つだ。
①LED ②電池 ③抵抗
当然LEDは必要で、電気を流すために電池が必要になる。
③の抵抗はLEDに抵抗が内蔵されてる場合を除き一般的に必要で、抵抗がないと LEDに電流が流れすぎて発熱により部品自体を破壊してしまう。
早速、この部品を繋ぐためAgIC回路マーカーで通り道を描いてみよう。
線は横並びに3本引き、線と線の間に部品を置くことで配線するといった具合だ。
回路マーカーは蛍光ペンでよく目にする形状をしていて、太い線から細い線までムラなく描くことができる。
今回使用したLEDと抵抗はチップタイプで、LEDのサイズは2.0mm×1.2mm、抵抗のサイズは3.2mm×1.6mmだ。余談だが、私が知る限り世界最小のチップ抵抗のサイズは0.2mm×0.1mmで、もはや肉眼で認識することは難しくピンセットで掴んだ感触はない。
回路マーカーで引いた上に部品が乗るように配置し、テープで固定した後、電池を接続した。結果としては一回でLEDを光らせることができた。
電池は見慣れない人が多いと思うが9V電池を使用している。
もちろん馴染み深い筒型の乾電池を使用しても光らせることができる(今回の場合だと乾電池を何本か直列に繋ぐ必要がある)。
あっけなくLEDを光らせることができてしまった通り、難しいことは一切なくLEDを光らせる程度のことであれば誰でもできてしまうのだ。
ただし、LEDと電池と抵抗のシンプルな回路であってもLEDが壊れないようにほんの少しの計算は必要だ。計算については次回解説していく。
◼︎AgIC回路マーカー使用してみた感想
AgIC回路マーカーのいいところは、何と言っても電気の通り道を好きな形で描くことができる点だろう。絵を描いてもよし、文字を描いてもよしで、オリジナリティのある回路が簡単に製作できる。また、子供にも取り扱えるので、楽しく電気に興味を持ってもらえるような体験を得ることも可能だ。
実際に線を引いてみると、もっと均一に、もっと真っ直ぐに線を引きたいという気持ちになった。例えば幾何学模様を取り入れたいと考えたとき、見た目の綺麗さは正確に並べられた線によって決まる。調べてみるとAgICのインクをプリンターで印刷することも可能とのことで、プリンターを駆使すれば複雑な模様も綺麗に描くことが可能だ。しかし、家のプリンターを使うのは大変そうなので、データ持ち込みで使用できる施設が有ったならば便利だと思う(どれほど使いたい人がいるかにも寄ると思うが)。
◼︎最後に
夏休みの自由研究が終わっていないそこの君!
まだ、間に合うので是非使ってみてほしい。実際、30分もあればLEDは光るだろう。
そして回路の面白さに気づいてもらえると幸いだ。
写真練習@吉野ヶ里
夏ですね。
デジタル現像 はじめました。
【第3回】音の指紋
音楽検索が可能なアプリ「Shazam」は、道端で流れている音楽を数秒で特定できる機能を持っている。現在はApple Musicと連動し検索した曲のフルバージョンをその場で聴くことができ、新たにアーティストを知るキッカケを得ることもできる。
今回はこの「Shazam」の音楽検索機能について解説していく。
まず、タイトルの意味から説明しよう。「音の指紋」という言葉は音楽検索機能を実現している「音声フィンガープリント技術」からとったもので、指紋認証技術の音声版といったイメージだ。
指紋認証では、あらかじめ登録しておいた指の模様とそこにいる人の指の模様が合致しているか照合しており、模様の特徴を比較している。同様に「音声フィンガープリント技術」でも、音声の特徴をあらかじめ登録されている音楽の特徴と比較し、合致しているか照合しているのだ。簡単に述べたが、この「特徴」を捉える方法こそが最大のポイントであり、そこには信号処理の基本的な技術が使われている。
■音楽検索機能を実現する3つのステップ
音声フィンガープリント技術で音楽を特定するためには大きく分けて3つのステップが必要なる。
①音声データを特徴がわかりやすくなるように変換
②変換したデータから特に特徴的な部分を抽出
③抽出した特徴と似た特徴の音楽があるか比較
この3つのステップは理数系に拒否反応が出る人にも読んでもらえるよう、かなり抽象的に書いた。今回はこのステップのうち最も基礎的な①について説明する。
■音声データの変換
先程、音声データと書いたがここでは「波形データ」を指している。波形データのイメージを下図に示す。
波形データは横軸は時間で縦軸が音の大きさとなる。この状態でわかることは「このときにはこのくらいの音の大きさ」ということぐらいで、特徴を捉えるにも時間に対して音の大きさの変化が似た音楽はたくさんあるだろう。これでは曲を特定することはできない。
曲を特定できるぐらいのはっきりとした特徴になるものは何だろうか?
ここで「音色」に着目する。
そもそも「音色」とは、そのときに聴こえてくる「音の高さ」と「音の大きさ」で決まる音の感覚的な特徴を指す。音楽であれば、普通は音の高さは1種類ではなく色々な高さの音がいっぺんに聴こえてくる。数秒の間、音色に着目して曲を比較すれば似た曲でも判別できるくらいはっきりとした特徴が捉えられるのでは?という発想だ。
では、音色に着目しやすいようデータを変換するとなると、「音の高さ」と「音の大きさ」がわかりやすくなった方が特徴が見えやすい。音の高さは言い換えると音の周波数である。音の周波数ごとに音の大きさがわかるように変換したい。そこで登場する技術が「フーリエ変換」である。200年くらい前にフーリエは「あらゆる信号は色んな周波数の信号の足し算で再現できる」ことに気づいたそうだ。言い換えれば、どんな音でもその音色を音の高さごとに分解できるということだ。
「フーリエ変換」の中身については、この場では書ききれないので興味を持った人は、まずフーリエ級数展開から検索してみてほしい。
先程の波形データのある瞬間をフーリエ変換した結果が下図だ。
横軸が周波数(音の高さ)で縦軸が音の強さだ。音の大きさと音の強さは同じものではないが、ここでは似たものと考えてほしい。
ここまでできてしまえば、ピークになっている周波数等に着目すれば、その音色の特徴を捉えることができる。この変換結果はある一瞬のものだが、数秒に渡って特徴を記録しておけば、その特徴は世界で1つ(1曲)のものになるだろう。
あとは、あらかじめ登録してある曲の特徴データとマイクから入ってきた音声の特徴を比較し、似たものがあれば曲を特定できるというわけだ。
いかにもすごい技術だぞといった風に書いたが昔から使われている信号処理の基本的な技術である。世の中フーリエ変換まみれである。
興味が湧いたらぜひ関連技術を調べてみてほしい。
【Trend】眠らない眼
【Memo】1秒の正体
今年も7月1日午前9時に閏秒として1秒追加される。
実は、毎日わずかな時間ではあるが地球の一回転と時計の1日にはズレが生じている。
閏秒はズレを数年に1度修正するものなのだが、この「1秒」とはなにものなのか考えたことはあるだろうか?
■1秒の定義
上の文を読んで違和感を感じた人は鋭い。
本来1秒とは、地球の一回転が24時間ぴったりであり、つまり24時間×60分×60秒=86,400秒で地球が一回転するように逆算されるものであるはずなのだ。
しかし、実際には閏秒で時計を調整する必要があり、現在の1秒は地球の一回転から計算した物ではなく、「原子時計」というものが1秒の定義となっている。
■原子時計と1秒の正体
原子時計は名前の通り、原子の物理的な特性を利用して正確な時間を計るものだ。
具体的にはセシウムという原子が世界の1秒を決定している。
このセシウムはある周波数をぶつけると共鳴するという物理的特性があり、この周波数はセシウムを使う限りいつでもどこでも必ず同じであることから、正確に1秒を計ることができるのだ。
ここで周波数とは何かというところに立ち戻ってみよう。
周波数の単位は[Hz](ヘルツ)なのだが、[Hz]を書き換えて[振動した回数/1秒]としたならば多少イメージしやすくなる。
例えば10Hzの信号があったとすると、それは1秒間に10回振動している信号ということになり、逆に10Hzの信号が10回振動したときが1秒というわけだ。
つまり周波数がわかってさえいれば、あとは振動した回数を数えることで1秒を計ることができ、正確に1秒を知るためには正確に周波数を知る必要があるということになる。
原子時計の話に戻ると、セシウムが共鳴する周波数は物理的にわかっており、少しでも周波数がずれると共鳴は起こらない。
このことから正確な周波数の信号を作ることができ、あとは振動の回数を数えるだけである。
具体的に共鳴する周波数というのは9,192,631,770[Hz]で、桁が多く見えるが技術的にはレーダー等で実際に使われてる周波数帯であり、怖じ気づくことはない。
結局、1秒の正体は「セシウムが共鳴する周波数の信号振動を9,192,631,770回数えたときの時間」であり、正確な1秒のためにたくさんの技術が使われている。
今回はここまでとするが、原子時計が正確に時間を計れているか監視している時計というものもあり、「1秒」ひとつをとっても奥が深い。
1秒の正体に興味を持ったなら、一度ご自身で調べてみることをおすすめする。
【第2回】画像データ化機能付きカメラ
スマートフォンの普及により高画質な写真が撮れるデジタルカメラ(以下デジカメ)は一層身近なものとなった。今や写真は画像データであることが当たり前であり、写真を撮影してからすぐにSNSにアップロードしたり、簡単に加工できるのは写真が画像データだからである。なぜカメラで撮影した風景を瞬時に画像データにできるのか考えたことがあるだろうか?今回は、風景を画像化する技術についてわかりやすく解説していく。
■フィルムカメラからデジカメへ
まず十代ぐらいの若い人に向けて、画像データ化機能の無いカメラについて触れたい。一昔前まで多く使用されていたフィルムカメラやインスタントカメラで撮影した写真は一度紙に現像しなければ見ることもできず、ましてや画像データにするためにはスキャナーで写真を取り込まなければならない。最初からデジカメやスマホに親しんできた若い世代は不便と感じるだろう。(私の世代で言えば、修学旅行の写真なんかは焼き増しした写真を友達に配ってシェアしていた。)2000年を過ぎたころからデジカメが普及し始め、一気に写真は画像データであることが当たり前となった訳だが、そこには技術の進歩が大きく関係している。
■画像データ化を実現する"イメージセンサ"
この写真は、私が所有しているPENTAX製K-50という一眼レフカメラの本体内部を写している。本体の中に白っぽい長方形の部品がついており、これがイメージセンサと呼ばれるものだ。カメラの機械的な動作はシンプルで、シャッターを切るとレンズを通ってきた光がイメージセンサに当たるだけである。このイメージセンサに当たった光を画像データ化するわけだが、そこには3つのポイントがある。
①カラーフィルタで光を色別に分解
②色別に光の量を数値化
③数値化された光の量から画像を生成
簡単に言うと、このイメージセンサはセンサに当たった"光の量"を"色別に数値化"することができ、その数値から画像データを作りだしているのだ。
■イメージセンサの中身
下図がイメージセンサを拡大した概念図だ。黒い四角で囲まれた部分が1画素にあたり、1画素は1ピクセルと言い変えることもできる。まず、1画素という言葉を使う時点で、デジカメで撮影した写真はごく小さな"点"の集まりであるということをイメージして欲しい。小さな点の集まりなのだが、その点は人間の目では確認できないほど小さいのだ。
センサの話題に戻ると、下図の1画素はさらに4つに分かれており、カラーフィルタによって赤色用のエリアと青色用のエリア、緑色用のエリアに区分けされている。カラーフィルタとは特定の色しか通さないシートのようなもので、赤色用のエリアでは青色と緑色の光は減衰し、赤色成分だけがセンサにあたるようになっている。4つのうち2つが緑色なのは、人間の目が緑色に対して高感度であり、それに合わせて作られているからである。1画素にあたっている光の色は光の三原色である赤、青、緑それぞれの光の量さえわかってしまえば再現できるので、各画素ごとに各色の光の量を測定しデータとして記録する。あとは、1画素ごとに三原色のデータを元にセンサに当たった光の色を復元し、画面に出すのみである。
■1画素の大きさ
デジカメの写真は人間の目では確認できないほど小さな点の集まりだと述べた。人間の目で確認できないことから、写真には膨大な数の点が印刷されていることが予想できる。では、その膨大な数の点1つずつのデータを取っているイメージセンサの1画素はどれだけ小さいのだろうか?この1画素の大きさは技術の進歩が大きく関係している。
1画素の大きさを1円玉(直径2cm)と同じ多きさであったと仮定しよう。イメージセンサと同じ画素数だけ1円玉を隙間なく置いていくと、長方形は約66m×100m程の大きさになる。この66m×100mの長方形を3cm以下まで圧縮するとイメージセンサができあがる。実際の1画素の大きさは数ミクロン(um)しかなくイメージすることは困難な小ささである。イメージセンサに画素数が多いほどより高画質の画像データが得られるわけで、1画素をどれだけ小さく作れるかが技術の見せ所のひとつである。イメージセンサは半導体でできており、半導体の微細加工プロセスの進化によってより小さく安価に製造ができるようになった。そのことからデジタルカメラはより小さく、より高画質になり一気に普及したと言える。
■最後に
スマートフォンのような高性能なデジタルカメラは何も意識せずシャッターを切るだけでとてもきれいな画像データを得ることができる。しかし、自動できれいに撮影ができるようになるまでにはたくさんの工夫があり、それを知ることでもう一歩踏み込んだ面白いカメラの使い方ができるかもしれない。