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【第5回】ペンで描く電気の通り道② -回路設計編-

 第4回では「AgIC回路マーカー」AgIC回路マーカーを使ってLEDを光らせるまでを解説した。今回はLEDを光らせるにあたり必要だった計算について解説する。解説すると言っても複雑なものではないので、「回路設計」の簡単な具体例として気軽に読んでほしい。

 

xxxxmhj.hatenablog.com

 

 前回ではAgIC回路マーカーを使用し、LEDを光らせることができた。

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LEDを光らせるために必要だった部品は、LEDと電池と抵抗の3つだ。

写真の部品接続を図にすると下図のようになる。急に記号になるが、非常にシンプルなので拒否反応がでる方も我慢して見てみてほしい。

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これが一般に言う回路図になる。部品の接続は電池のプラス側(電池の記号で線が長い方)に抵抗が繋がっており、抵抗の反対側にLEDの片端が繋がっている。さらにLEDの反対側は電池のマイナス側に繋がっており、言葉を変えれば部品はすべて直列接続されていることになる。

 

計算を始める前に、ひとつ部品の接続に注意点がある。LEDの記号に着目してほしい。

LEDの記号は三角形と直線が合体した形をしており、この形は電流が流れる向きを示している。三角形は部品の接続線とセットでみると、矢印に見ることができ感覚的に矢印の方向に電流が流れるとわかるようになっている。直線の方は”壁”のイメージで矢印と逆方向には電流は流れないことを示している。この場合は回路図の向きに接続しないとLEDに電流が流れず光らせることはできない。

 

では、本題の回路設計を今回の例に沿ってやってみよう。

今回計算で設計しなければならないものは、電池とLEDの間に挟まっている抵抗の値である。抵抗と一口に言っても、その値は様々な種類のものが販売されている。この回路での抵抗の役割はLEDに流れる電流の大きさを設定することで、電流の大きさによってLEDの光の明るさが変わってくる。

 

下の写真はLEDの仕様だ。書かれている内容について簡単に説明する。

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発光色 → LEDの光の色。現在様々な色のLEDが販売されている。

Vf → LEDが光るために最低限必要な電圧

If → LEDを光らせる上でLEDに流す電流の推奨値

Iv → LEDに流す電流をIfとしたときの光の強さ

Angle → LEDの光が広がる角度(真正面から見たときの半分の光の強さになる角度)

回路設計する上で特に注意が必要な仕様はVfとIfである。

VfはLEDが光るために最低限必要な電圧なので、このLEDを光らせるためには最低3.1Vが必要で一般的な筒状の乾電池の場合、3本直列に接続しないと光らせることができない(一般的な筒状の乾電池は1本1.5V)。乾電池を直列に接続することが手間だったので、今回は9V電池を選択している。

Ifは光の強さの目安として使うことができるが、Ifよりも大きな電流を流すと発熱等の理由でLEDが壊れてしまう可能性があるので、基本的にはIf以下の電流を流すように設計する必要がある。

 

今回の例ではLEDに流れる電流をIfの20mAになるよう計算してみよう。前提として直列接続された部品に流れる電流は同じになるので、LEDに流れる電流と抵抗に流れる電流は同じになる(他に電流が流れる経路がないので同じになるのは必然)。そのためLEDに流れる電流は、抵抗に流れる電流を設定することで決めることができる。

抵抗に流れる電流の目標は20mAである。この目標通りに設定をするために必要な情報はたったひとつで、抵抗の先っぽ同士の間にどれだけの電圧がかかるかである。これは「抵抗に流れる電流と抵抗にかかる電圧は比例関係になる」という法則を用いることで計算ができるからだ。

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実は抵抗の先っぽ同士にかかる電圧の計算はとても簡単で、具体的には「9V-3.1V」で答えは5.9Vとなる。察しが良い方は気づいたかと思うが電池の電圧からLEDのVfを引き算しただけである。LEDを光らせるためにはLEDにVfだけ電圧が掛かっていなければならないので、抵抗にかかる電圧は電池の電圧からVfを引いたものとなる。

式で書くと、

Vr = E - Vf (Vr:抵抗にかかる電圧, E:電池の電圧) …①

となる。

「抵抗に流れる電流と抵抗にかかる電圧は比例関係になる」ので、式で書いてみると、

V = R × I (V:電圧, I:電流, R:正の比例定数)

比例の関係は色々な書き方があるが、式をみてもらえれば電流が増えると電圧も増えることがわかると思う。この式でいう比例定数Rこそが抵抗値である。

今回求めたいのは電流が20mA流れるような抵抗値なので式を変形してみると、

R = V / I …②

となる。今回の回路では抵抗にかかる電圧Vrは①式となるので2つの式を合体すると、

R = (E - Vf) / I

となる(VをVrに置き換えた)。

あとは具体的な数字を入れて計算すると、

R = (9V - 3.1V) / 20mA = 295Ω

となり、LEDに流れる電流を20mAに設定するための抵抗値を求めることができた。

残念ながら295Ωという中途半端な値の抵抗は売っていないので、実際に使う抵抗は300Ωが妥当だろう(300Ωが売っていなかったら次に近い330Ωになる)。ここで計算値よりも小さい抵抗を使用するとLEDに流れる電流が20mAを超えてしまうので注意が必要だ。

 

長々と説明したが、結局は最後に数値を代入した式の計算のみで難しいことはない。

「抵抗に流れる電流と抵抗にかかる電圧は比例関係になる」という法則を使用して計算したが、この法則こそが「オームの法則」である。誰もが聞いたことがあるであろうこの法則は回路設計にとって不可欠なものであり、実際の回路設計作業では息をするように使用している。

 

次回はこの「オームの法則」を感覚的にわかるよう解説していく。